37,38.それではこのように概念と実験をどのように私どもは臨床に生かしたらよろしいのでしょうか。そこでまず考えてみますと、腎臓が悪くなる、すなわち私たちはそれをどうとらえるかというと、血清クレアチニン値あるいは糸球体濾過量でとらえます。すなわち糸球体濾過量が低下してくるもしくは血清クレアチニン値が上昇してくることによって血圧が上昇する。すなわちこのように腎機能と血圧というものが非常に密接に関連していることがおわかりになっていただけると思います。

39,40.そこでまず世の通例といたしまして、大規模臨床試験の結果を見てみたいと思います。腎臓領域では三つの大規模臨床試験が報告されています。一つはAIPRI(Angiotensin−converting enzyme inhibitor benazepril on the Chronic of Renal Insufficiency) (14)、一つはMDRD(Modification of Diet in Renal Disease)(15)、一つはREIN(Ramipril Efficacy in Nephropathy) (16)研究です。

41.この3つの研究において何がわかったか。これらはまず対象数をそれぞれ見てみますと、大体300〜800、対象年齢は50歳前後です。そして男性が60〜70パーセントを占めております。

42.一方、対象疾患については若干のずれがありまして、AIPRI研究においては慢性腎不全が、MDRD研究においては多発性嚢胞腎が、REIN研究においては慢性腎炎が多く含まれています。

43,44.そしてこれらの研究の結果からどういうことがわかったかというと、ACE阻害薬は腎不全の進行を遅らせる。また、血圧を下げることによって効果がある。あるいはACE阻害薬と蛋白尿が大量に出ている場合はACE阻害薬は非常にいい効果を示すということでした。

しかしながらさらにわかったことは、ACE阻害薬単独だけでは降圧に限界がある。しかしカルシウム拮抗薬との併用でその有効性を発揮し、その間に血圧を厳重に管理することが重要であることが判明した。

45.わが国の腎疾患の特徴を見てみますと、IgA腎症が多く、多発性嚢胞腎は比較的少ない。それから最近では2型糖尿病による腎症が多くなってきているわけです。

46.そこで私どもはまず腎症を診ていくうえに大切なのは年齢と疾患であるというふうに考え、比較的若年者に多く見られるIgA腎症の降圧治療に関しての結果を見てみました。

47.まず、IgA腎症は組織別に微小変化群、あるいはFPGN(Focal Proliferative Glomerulonephritis)、すなわち巣状の増殖性変化、それからDPGN(Diffuse Proliferative Glomerulonephritis)びまん性の増殖性変化というものがあると考えられています。

そしてここで見ていただきたいのは、ある年月がたっていくとこれら3群の腎生存率の傾きは同じようになりますが、初期においてこれらが異なっているということがわかります。

48.そこで私たちは血圧を厳重に管理するということを行ってみました。その結果、血圧を厳重に管理することによって、このように腎機能が安定し、男性も女性も安定する。

49.すなわち血圧を厳重に管理するということがとくに若年のIgA腎症においては、まだ腎機能がそれほど悪くない段階において非常に重要であるということが確かめられました。

50,51.次に、私どもは家庭血圧、とくに朝の血圧とカルシウム拮抗薬とACE阻害薬の併用という点に注目して仕事をやってまいりました (17)。

52.腎臓が悪くなりますとどういうことが起こるかというと、通常私たちは昼間立位ですが、この立位においては腎臓の血流量が低下いたします。腎臓の血流量が低下しますと、当然のことですが、尿中ナトリウム排泄量は低下いたします。そのような結果、先ほど見ましたように、圧ナトリウム利尿機構から考えますと、夕方に私どもの腎臓が悪い患者さんは血圧が上昇傾向となり、さらにときどき浮腫も見られるようになるわけです。そうしますと血圧の上昇とともにナトリウムの排泄量は増加いたします。一方、夜になると就寝する、すなわち臥位になるわけですが、臥位になりますと腎血流量は増加します。すると尿中ナトリウム排泄量が増加するわけです。このような尿中ナトリウム排泄量の増加のために、しばしば腎臓の悪い患者さんは夜トイレに起きるということが見られるわけです。そしてこのようなところでいったん少し血圧は下降傾向になりますが、その後交感神経活動の亢進で、早朝に向けまた血圧が上がってくるということが起こるわけです。

53.そういうときに私どもは特に中程度の腎不全の降圧治療として、心肥大がある場合とない場合でどうであろうかということを見てみました。

54.すなわち朝の血圧をまずグアナベンツという中枢交感神経系に働く降圧薬を用いて下げることを行いました。

55.そうしますと心臓の壁が厚い人、すなわち左心室肥大のある人たちは2年間ですが、朝の血圧を下げることによってこのような退縮効果をもたらすことが出ました (18)。

56.一方、糸球体濾過量に関しては、残念ながら朝の血圧を下げることによっても十分にはその保護効果を認めることができませんでした。

57.そこで、私たちは3年間にわたって朝の収縮期血圧と糸球体濾過量の変化を調べたところ、このグラフで認められるように、収縮期血圧が高ければ高いほど、すなわち1年当たりに失われる糸球体濾過量は大きくなるということが見つかりました (19)。

58.もちろん診療所での拡張期血圧との相関もあることはありますが、非常に弱い相関です。

59,60.そしてこのように全体で糸球体濾過量が3年すると下がってくるわけですが、朝下降している群と下降しなかった群ということで比較してみますと、比較的明確な差異を認めることができました

61.一方、これらの人たちの診療所での血圧を比べてみましたところ、ほとんど差異がなく、このように診療所だけの血圧を見ていては問題があると考えました。

前ページ ホーム 次ページ