心臓弁膜症
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最終更新日 03/17/09

心臓弁膜症とは?

水色の輪での断面

真上から見た心臓の断面

心臓は体の中でポンプの役割をしていることは皆さんご存知のことと思います。ポンプには弁が付いていて、この弁が開いたり、閉じたりすることにより、液体(体の中では血液)をある程度ポンプの中にためて、一気に押し出し、一旦押し出した液体がまたポンプの中に戻らないようにして、ポンプを効率よく働かせています。心臓の中にも弁があります。

それでは、心臓の弁の様子を見てみましょう(左上の図は心臓を正面、右上の図(出典:「カラーアトラス弁膜症」曲直部壽夫監修、1988年ライフサイエンス出版、p3、図3)は心臓を左図の水色の輪の断面を上から見たところ)。このように心臓の中には4つの弁があります。これらの弁がアニメーションの様に開いたり、閉じたりして、ポンプとしての心臓を効率よく働かせています(出典:「カラーアトラス弁膜症」曲直部壽夫監修、1988年ライフサイエンス出版、p21、図25)。

これらの弁の開きが悪くなって、血液が心臓の部屋から出て行きにくくなったり(弁狭窄症)、弁の閉じ方が悪くなって、一旦押し出した血液がまた元の心臓の部屋に戻ってしまう(弁閉鎖不全症)病気が心臓弁膜症です。

弁の働きが悪くなると、ポンプとしての心臓の効率が悪くなり、だんだん心臓に負担がかかってきてしまいます。心臓がこの負担に耐えられなくなった状態が心不全です。

また、働きの悪くなった弁には、ばい菌がついて、繁殖しやすくなり、心内膜炎という、厄介な病気を引き起こすことがあります。とくに、弁の悪い患者さんが、歯を抜くときには注意が必要ですので、あとから対策などもお話したいと思います。

10数年前までは、リウマチ熱(関節リウマチではありません)と言う子供のころに罹りやすい感染症の後遺症として、弁が傷むことが心臓弁膜症の主な原因でしたが、最近リウマチ熱は減り、これによる、心臓弁膜症はかなり減少しています。

しかし、他の原因による心臓弁膜症は、診断技術の進歩とも相俟って、よく発見されるようになっています。

ここでは、成人での頻度が多く、かつ心臓の働きに大きく影響する大動脈弁と僧帽弁の弁膜症について中心にお話ししたいと思います。

大動脈弁狭窄症

正常大動脈弁大動脈弁は左室と大動脈の間にある、心臓の出口にある弁です(右の図)。

大動脈弁狭窄症とは、この弁の開きが悪くなり、心臓がある一定量の血液を大動脈に押し出す際に余計に力が必要になり、徐々に心臓に負担がかかってくる病気です。

この図のように大動脈弁は正常では3つの弁からできていますが、動脈硬化が大動脈に生じてくると、大動脈弁にも硬化がおきてくる人がいます。

大動脈弁狭窄症右の図のように3つの弁が硬く、厚くなって、弁の開きが悪くなってきます(出典:「カラーアトラス弁膜症」曲直部壽夫監修、1988年ライフサイエンス出版、p98、図137)。これを動脈硬化性大動脈弁狭窄といい、現在この病気の原因として最も多いものです。大体、60歳後半から、70歳台になって、この病気が出現してきます。

ただし、生まれつき大動脈弁の3つの弁のうちの2つの弁が癒合して、2尖弁となっている人が人口1万人あたり10人くらいいるといわれています(大動脈二尖弁)が、このような人では40歳台くらいからこの病気が出現してくることがあります。

症状は、狭窄の程度が軽いうちはあまり目立った症状はないのですが、病状が進むと、比較的急に労作時の胸痛、あるいは失神が出現してきます。また、心不全状態といって、呼吸困難で発症することもあります。

薬では狭くなった弁を広げることはできないので、治療法としては弁を取りかえる外科的手術ということになります。

(一時、外科的に胸を開かずに、カテーテルという細い管の先に風船をつけたものを、股の付け根の動脈を通して、狭くなった大動脈弁までもって行き、それをふくらませることにより弁を広げる治療法も行われたこともありましたが、弁が破けたりする危険が高く、現在下火になっています。)

人工弁(機械弁)前述した症状がでたら、早めに外科的手術をしたほうが長生きできる事がわかっています。最近は耐久性の良い人工弁(右の図)が主に使われていますが、人工弁は血栓がつきやすいので、術後ワーファリンという血栓をできにくくする薬を一生のまなければなりません。

今後、高齢化が進めば、動脈硬化による大動脈弁狭窄は増えることが予想されていますが、この病気は高齢者でも手術は比較的うまくいくと言われていて、80歳台の患者さんも、余病がなければ手術を勧めることもあります。

大動脈弁閉鎖不全症

大動脈弁閉鎖不全症の原因としては、弁自体が傷んで、弁の合わさりが悪くなること(リウマチ熱、大動脈二尖弁、動脈硬化など)と、大動脈が拡大することにより、弁の合わさりが緩むこと(大動脈瘤、大動脈弁輪拡張症など)とがあります。

心臓が一旦大動脈に押し出した血液が、大動脈弁の合わさりが悪いために再び心臓に戻ってきてしまいます。このため、心臓のポンプ効率が悪くなり、負担がかかってきます。

症状としては、上の血圧が上がり、下の血圧が下がって、血圧差が大きくなるため、動悸を自覚するこがあります。病状がかなり進行しないと、それ以外の症状はあまりないのですが、進行すると呼吸困難を主とした心不全症状がでてきます。

治療としては、血管拡張薬を使って、血管を拡張させて、血圧を下げることにより、心臓にもどる血液の量を減らすことができます。

また、利尿薬を使って、心臓が十分に送り出せなくなった余分な血液を尿として排泄することにより、心臓の負担を減らすこともできます。

このような薬を使っても、心不全症状が良くならないなら、外科的手術をしなければいけません。弁自体が傷んでいる場合は、弁を取り替える必要があります(大動脈弁置換術)。

大動脈が拡大していて、大動脈弁自体は傷んでいなければ、人工血管を使用して、弁は温存して弁の合わさりを良くすることもできます。

僧帽弁狭窄症

正常の僧帽弁僧帽弁は左房と左室の間にある弁です。右の図のように、前尖、後尖の二つの弁からできています(出典:「カラーアトラス弁膜症」曲直部壽夫監修、1988年ライフサイエンス出版、p81、図112)。

僧帽弁狭窄症の原因としては、前述したリウマチ熱の後遺症が大部分です。したがって、リウマチ熱が減少している現在の日本では僧帽弁狭窄症はめずらしい病気になりつつあります。

僧帽弁狭窄が起きると、弁の上流側にある左房に血液が鬱滞して、左房は大きくなり、働きも悪くなり、心房細動といって、心臓が不規則に早く収縮するようになります。

また、このため血栓(血のかたまり)が左房内にできやすくなります。病状が進むと、左房のさらに上流にある肺血管にまで血液の鬱滞が出現してきます。

症状は病気がかなり進行するまであまり目立ったものはないのですが、肺血管にまで血液の鬱滞が出現すると、呼吸困難が出現してきます。

また、左房にできた血栓がはがれて、脳の血管に流れ、脳の血管を詰まらせて、脳梗塞を起こすこともよくあります。治療はまず、血栓を予防するために、ワーファリンとういう薬や、鎮痛解熱薬として有名なアスピリンを少量使います。

心房細動が出現してくれば、ジゴキシンという薬を、心房細動の不規則で早い脈を整えるために使います。

呼吸困難を主とした心不全症状がでてくれば、前述した血管拡張薬や利尿薬が使われます。

最近、外科的に胸を開かずに、カテーテルという細い管の先に風船をつけたものを、股の付け根の静脈から心臓の中の壁(心房中隔)を通して、狭くなった僧帽弁までもって行き、それをふくらませることにより弁を広げる治療法が日本人により開発され、広く行われるようになっています。

しかし、病状が進んで、弁が石のように硬くなったり、左房に血栓があるとこの方法も使えず、外科的手術(人工弁)が必要となってきます。最近、この手術の際、メイズ手術といって、左房を迷路状に一旦切って、再び縫いあわせることにより心房細動の不整脈もついでに治してしまうことも行われてきています。

僧帽弁閉鎖不全症

僧帽弁閉鎖不全症は左房から左室へ押し出した血液が、合わさりの悪くなった僧帽弁を通って再び、左房に逆流してしまう病気です。

僧帽弁逸脱症この原因としては、昔はリウマチ熱が多かったのですが、最近は僧帽弁逸脱症といって、右の図のように(出典:「カラーアトラス弁膜症」曲直部壽夫監修、1988年ライフサイエンス出版、p56、図73)、僧帽弁が、スポンジのように厚ぼったくやわらかくなることにより、弁が左房側に落ち込んで逆流を起こす病気が増えています。

僧帽弁逸脱症の詳細についてはここをクリックしてください。

この病気も、症状はかなり進行するまであまり目立ったものはないのですが、呼吸困難などの心不全症状が出てきた時には、病状はかなり進んでしまっていることがよくあります。

また、後述する心内膜炎がきっかけになって発見されることもあります。治療は血管拡張薬や利尿薬が使われますが、最近は手術手技の進歩により、中等度以上の僧帽弁逆流があれば、自覚症が出る前に外科的手術をしたほうが良いと言われています。

手術は悪い弁を人工弁に取り替える、僧帽弁置換術が専ら行われていましたが、最近、弁形成術といって、弁の悪いところをうまく切り貼りして、弁の合わさりを良くする方法も試みられています。

この方法の長所は、人工弁だと、一生ワーファリンという、人工弁に血栓がつくのを予防する薬をのまなければなりませんが、形成術ではこの薬をのまなくてもすむということです。

心内膜炎

心臓弁膜症の患者さんは、感染性心内膜炎あるいは細菌性心内膜炎といって、働きの悪い弁に細菌や他の病原体がついて増殖し、熱発を引き起こす、たちの悪い病気になる可能性があります。この病気は、適切な治療をしなければ、死亡率の非常に高い恐い病気です。

したがって、弁膜症の患者さんは、細菌が血管の中に入ることが予想されるとき(抜歯など)には、あらかじめ、抗生剤を必ず使わなければなりません。

また、熱発が、五日以上続くときには、迷わず、病院に来てください。不幸にしてこの病気にかかったら、大量の抗生剤を長期間点滴する必要があります。抗生剤が十分効かないときは、外科手術をしなければなりません。

感染性心内膜炎の詳細はここをクリックしてください。

エコー検査弁膜症!?

心臓弁膜症の診断に、弁の形や動き、心臓の中の血液の流れがよくわかる、心臓の超音波検査(エコー検査)は非常に役立つものです。

しかし、最近、エコー装置の性能が非常によくなった結果、弁の働きは正常でも、ごく僅かの弁逆流があることがエコー検査で分かるようになりました。

このような生理的な弁逆流がたまたまエコー検査でみつかり、心配されて相談にこられる方が当院でも増えています(エコー検査弁膜症?)。エコー検査でしかわからないこのような僅かな逆流では、心臓に負担がかかったり、心内膜炎を起こしたりすることはないので心配はいりません。

エコー検査で弁の逆流があるといわれても、その程度がどの程度のもので、心臓に負担がかかったり、心内膜炎を起こしたりする可能性のあるものなのかどうか、よく担当の先生に聞いていだだくと良いと思います。